2014年10月

FC40周年記念 萩尾望都先生のトークショーの内容

2014年9月23日イオンレイクタウン越谷で開かれたFC40周年記念萩尾望都先生のトークショーの内容です。メモから起こして記憶で補完しているものです。内容的には一部ですし、大間違いはしていないと思いますが、100%正確ではありません。雰囲気が伝わればと思い掲載します。イベント全体の内容については、こちらに記載しました。


トークショーは小学館の方が司会をされ、まず、歌人の穂村弘さんが登場。大修館書店の「辞書の本」での対談がきっかけと思われます。細いし、見た目すごく若いですが、もう52歳ですか。「辞書の本」での対談を読んで思ったのですが、穂村弘さんは少女マンガをちゃんと読んでいらっしゃるし、理解しておられます。話し方もソフトですし、女性漫画家さんのトークショーはうってつけです。

FC40周年記念のイベントですが、フラワーコミックスは1974年から開始されました。小学館の少女漫画の単行本のレーベルとしては初です。「ポーの一族」がその第1号です。それから40年も経ちました。



穂村:1974年当時の萩尾先生は考えていたことはどんなことだったのでしょうか?

萩尾:漫画家になって、夢中で描いていました。私たち世代は終戦後に生まれ、アメリカ映画やヨーロッパの文学や海外文学の影響をすごく受けて育った。世界文学全集を中学校から高校にかけて読んでいて、「バタ臭い」読書環境で育ったんです。だけど、実際の環境は炭坑村じゃないですか。一生に一回でいいから外国というものに行ってみたいなぁと思って育って。「ポーの一族」は海外への憧れが結集した作品で、そんな感じでした。

萩尾:若い頃はほとんどSFを読んでいたのですが、途中でドイツのヘルマン・ヘッセにすごい夢中になったんですね。それでギムナジウムに夢中妄想が膨らみました。ヘッセの作品の中に出てくるものがありまして、風景に感動したり、いろいろと妄想を膨らませていました。高度経済成長の時代だったので、学校でも家庭でも無駄なものを全部省いて勉強第一という感じで、親に隠れてマンガを描いていました。

穂村:中学生の時に読んだマンガでいろんなことを学び、吸収しました。「ジェンダー」という言葉は「11人いる!」のフロルから知りました。

萩尾:私たちの世代男女の役割に古典的な観念にとらわれていて、女の人が働く概念がそもそもなかったので、それ(結婚しろという圧力)に対しての反発はありませんでした。いずれそうなるんだろうなと思っていました。今はとりあえず描きたいものを全部考えてから(結婚については)考えようと思っていました。結婚したら漫画家をやめなければと思っていました。でも、意識の下では「何故、女性だけが(仕事を)やめなくてはならないのか」と反発していました。息苦しい思いをしておりました。
フロルベルチェリ・フロルの名前ですが、「フロル」はドイツ語でいう「お嬢さん」の「フロイライン」からアレンジ。「チェリ」はチェルシーやチムニーといった「かわいい」イメージでつけました。


○いただいた質問から

穂村:特に思い入れのあるキャラクターは他にいますか?

萩尾:日によって違ったりするのですが、「ポーの一族」のエドガー・ポーツネル。マイペースで、あまり周りに流されない強さがある反面、ナイーブで孤独感をもっているところが好きでした。あと、「11人いる!」のフロル。性別から開放されるところ。

穂村:ご自身に似ているキャラクターは?

萩尾:それぞれ自分をちょっとずつ映し出しています。「残酷な神が支配する」のグレッグですらそうです。一方で、描いていて好きになれなかったキャラクターはサンドラで、自分の優柔不断さを反映しています。


穂村:ファッションはどうやって考えるのでしょうか?

萩尾:福岡のデザイン学校に2年間通って、ファッションデザインの勉強をしました。それまで、ファッションにはまったく興味がありませんでした。縫う方は苦手でしたが、ファッションの歴史を教える時間があって、それがすごくおもしろかったのです。例えば、みんなで映画館に行って映画を観ます。「俺たちに明日はない」と「80日間世界一周」という映画でした。「80日間世界一周」の方は1890年頃のアメリカで、「俺たちに...」の方は1920年代が舞台です。女の人のドレスの長さや形が違います。ファッションが時代とともに変わっていくのがすごくおもしろい。学校には2年間いて4着しか服をつくらなかったのですが。自分では着ないけど、今でも作品をつくるとき、キャラクターに何を着せようか考えるのが楽しみです。

穂村:SF作品でよく萩尾先生は未来の服を作り出されますが、それがすごいステキだなと思います。

萩尾:未来の服は良くも悪くも「宇宙家族ロビンソン」ですね。体にぴったりとそって、伸縮性も良く、動きやすそうなので、未来の女の人は仕事してるんだろうなぁと思います。


穂村:スピンオフをつくる可能性のある作品はないですか?

萩尾:もしかしたら「ポーの一族」のスピンオフ・オフくらいのものは出来るかもしれない。「インタビュー・ウィズ・バンパイヤ」という映画を観て、吸血鬼ものってこんなふうにも作れるんだってすごく思いました。アン・ライスの吸血鬼ものにはまってしまいまして。吸血鬼ものをもうちょっと描いてみたいと思いました。

穂村:萩尾先生と「辞書の本」というPR誌で対談したときも「11人いる!」の登場人物ごとにスピンオフがあるとのお話でした。「もう描かないから」とフロルの話をして下さったのですが、いやいや描いて下さい、と思いました。

萩尾:「11人いる!」ももっと描こうと思ったのですが、主人公のダダが退屈になってしまい、あまり優等生過ぎて、おもしろくなくなってしまいました。

穂村:他のキャラクターが濃すぎますね。主人公がニュートラルになってしまうという。


穂村:双子についての質問が多くあって、やはり関心がおありですか?

萩尾:はい。双子については小学校の頃に、わたなべまさこ先生が双子のシリーズを描いてらしたんです。「さくら子すみれ子」だったかな?双子ものは少女漫画では人気があって、いろんな方が描いてらしたんですが、読んで、なんか、すごくいいなぁと思って。というのは、小学校の頃は兄弟げんかが多かったんですね。話してもすぐ喧嘩になるんですが、双子だったらこんなことはないのかな、と。毎日楽しくおしゃべり出来るんじゃないかと。

穂村:双子だったら仲がいいんじゃないかと。なんでそう思うんですか?

萩尾:自分の分身だから。でも、双子っていうのは危機的な存在であるということがだんだんわかってきて。逆に双子っていうのは、ある種自分の鏡なわけで、その存在に惹かれるんじゃないかと。神秘的だなと思う。


穂村:時間の流れっていうのが、不思議な形で重要なテーマという作品が萩尾先生には多いのですが、萩尾先生にとっての時の流れってどういうものですか?

萩尾:時間の流れで、すごいショックを受けた作品があって、手塚治虫先生の「鉄腕アトム」の「電光人間の巻」というのがあるんです。(あらすじを話す)で、「なんで、こんなことになってるのか?」というので、遡って描いているんです。

穂村:萩尾先生の作品でも「脱出出来ない」という表現が、コマが戻るという形で出ていますよね。「銀の三角」ですか。あれはショックでした。実際にページをめくっていたところに戻ってしまうという。思わずノンブルを確認してしまいました。

萩尾:時間が混乱してると、全体を俯瞰しないとわからなくなってしまうんです。その辺の感覚がすごくおもしろい。

穂村:萩尾先生の作品にはアプローチがいつも思考実験的なところがありますね。


穂村:震災の前後で意識の変化はありましたか?

萩尾:ものすごく変わりました。震災の前は、生方さんという売れない小説家を主人公にした「ここではない★どこか」というシリーズをずっと描いていたのですが、震災が起きたときは本当にショックで描けなくなってしまいました。特に生方さんが生きている10年後か20年後にこの震災が来るのかと思ったら、これからの話を描くのがしんどいなと思ってしまって。

地震や津波だけでもすごいのに、福島の原子力発電所が爆発しました。メルトダウンまで起きてしまって「ウソでしょ?」と呆然としました。これはもうダメだと思っていたら、チェルノブイリで菜の花など種を埋めて土壌を回復するという情報がインターネットに載っていて、「菜の花を植えれば、もう大丈夫」と思ってしまって、原発の問題をこんな時期に描いていいんだろうかと編集に相談したら、いいですよと言われたました。で「なのはな」を描いたのですが、描いているときにいろいろと調べました。原子力発電やウランや原子力爆弾、キュリー夫人など調べているうちに「プルート夫人」「ウラノス伯爵」などが出来ました。

2011年は原発からなかなか頭が切り替われませんでした。震災ものだけではつらいけど、現代のものを描くことが難しいので、歴史物なら描けるかもしれないと思い、描くことにしました。それが「王妃マルゴ」です。

また、今は小松左京さんの「お召し」という作品を原案にして、「AWAY」という作品を描いています。震災後に混乱して、サバイバルがいたるところで起きたような感じだったので。子どもたちが、大人が急にいなくなった状況で、サバイバルする話です。

穂村:「AWAY」については原作を読みました。基本設定は同じなんですが、全然違うんです。子どもがもう原作と年齢が違うし。読み比べてみて下さい。


穂村:萩尾先生は40年間ずっとトップクリエイターとして走ってらして、その原動力となるもの、大事にしているところとか、核にあるものってなんでしょう?

萩尾:基本はお話をつくるのが好きということですね。妄想系です。妄想を人に信じてもらうためには、ロジカルでないとならない。ファンタジーを信じてもらうテクニックです。
キャラクターが若いと、若い考え方をしなければならない。スタッフにチェックしてもらっています。


ここでトークショーは終わりです。
田村由美先生が登場され、萩尾先生に花束を渡されました。

2014.10.30 16:50 | イベント

萩尾先生の「うそうそ」も収録された「しゃばけ漫画」単行本が発売されます。

しゃばけ漫画告知

2014年12月2日、新潮社より「しゃばけ漫画」が上下巻で発売されます。「仁吉の巻」と「佐助の巻」です。これは『小説新潮』に掲載された作品のアンソロジーです。萩尾先生は2014年8月号に32ページの「うそうそ」を掲載されました。

萩尾先生の「うそうそ」は「佐助の巻」の方に収録されます。

「しゃばけ漫画」は畠中恵さんの小説の「しゃばけ」シリーズを漫画化したもので、これまでたくさんの漫画家さんが執筆してきました。原作そのままを漫画化した作品あり、原作のある作品のイメージをベースにしたオリジナル作品もあります。

「しゃばけ漫画」一覧
1上野顕太郎「狐者異(こわい)」2013年9月号
2雲田はるこ「ほうほうのてい」2013年10月号
3えすとえむ「月に妖(あやかし)」2013年11月号
4安田弘之「しゃばけ異聞 のっぺら嬢」2013年12月号
5鈴木志保「ドリフのゆうれい」2014年1月号
6つばな「動く影」2014年2月号
7吉川景都「星のこんぺいとう」2014年3月号
8村上たかし「あやかし帳」2014年4月号
9紗久楽さわ「きみめぐり」2014年5月号
10岩岡ヒサエ「はるがいくよ」2014年6月号
11みもり「仁吉の思い人」2014年7月号
12萩尾望都「うそうそ」2014年8月号
13高橋留美子「屏風の中」2014年9月号

2014.10.29 21:20 | 単行本発売情報