2016年7月21日

女子美術大学講演「萩尾望都先生への10の質問」レポート

萩尾望都先生への10への質問2016年7月17日、女子美術大学オープンキャンパス特別講演「萩尾望都先生への10の質問」を聴きに行ってきました。メモから起こした簡単なレポートをお送りします。

日時:2016年7月17日(日)14:00~15:00
場所:女子美術大学杉並校舎7号館7201教室
司会:内山博子先生


Q1.萩尾先生はいろいろなジャンルのストーリーを考えておられますが、作品の発想の源は何でしょうか?特に「銀の三角」の場合は?

A1.炭鉱町で育ったので、美しいものへあこがれる時代を過ごしたことが、発想の源と言えるかもしれない。
「銀の三角」は武蔵野音楽大学を見学した際、東南アジアなどの古い楽器、古楽器の展示をを見たことがきっかけ。その展示の図録を買って自宅でずっと見ていたら、どんな人が演奏していたのだろうと考えているうちにストーリーが思い浮かんだ。

Q2.「トーマの心臓」連載時は資料も少なかったと思いますが、どのように情報収集をしていましたか?

A2.まず、ドイツに興味があったのはヘルマン・ヘッセが好きだったから。なぜ好きだったのかというと、人生についての悩みや葛藤が書かれているから。主人公は自分がおかれている現状との葛藤を抱えていて、我が身と重なり、また勇気づけられた。

トーマの心臓後にドイツの話を描くということになるとは思わずにドイツ旅行をしていて、プラットホームが低いなと感じていた。「トーマの心臓」の冒頭、トーマが線路に飛び降りるところは駅構内の写真を見ながら書いた。

資料はあまりなく、主に文字の情報から。出版社(小学館)の図書室からドイツの風俗文化に関する本を借りて読んでいた。資料から植物分布を見て、学校に何の木を植えるのかなど考えていた。ドイツはどこもブナの木だらけで、日本の植物分布の豊かさに驚かされた。

「王妃マルゴ」の場合、現在のバラは品種改良を重ねて大きくなっていて16世紀のものとは違うので、当時描かれた宗教画等を参考にして描いている。一方で、フランスにもアゲハ蝶くらいいるだろうと思って描いたら、ヨーロッパにアゲハ蝶はいませんと詳しい人から指摘された。そういうこともあります。


トーマの心臓 p4~5Q3.「トーマの心臓」の冒頭のトーマの遺書について。雑誌掲載時は「彼の中に」だったのが単行本では「彼の目の上に」に変わったのはなぜですか?

A3.最初の原稿では「彼の目の上に」になっていた。でもそれでは読者にわかりにくいのではないかと考え、発表時には「彼の中に」に変えた。でも単行本になるときに「彼の中に」生きるのは不遜ではないかと考え直して元に戻した。「彼の目の上に」は彼の思い出に生きる、という意味。

トーマの心臓 p6~7(「トーマの心臓」冒頭の二色刷りの原稿が映し出される)この頃の絵、頭でかいな...(苦笑)。
二色刷はカラーより印刷費が安いので、当時はよく頼まれた。たくさんの色があると迷うので、二色の方が楽。色彩感覚の豊かな人が羨ましい。マティスみたいな(内山先生からそれはちょっと特殊では?と言われる)


Q4.「トーマの心臓」に関連する作品を発表される予定はありませんか?

A4.ありません。


Q5.先生はマンガのアイディアは100位は常にもっていると本で読んだことがあります。作品として発表していく順番はどのように決めているのでしょうか?

A5.以前は常時ネタ帳(アイディアノート)に100くらいのアイディアがあって、その話を美内すずえ先生にしたら、「私は500くらいある!」と言ってました。
そのアイディアは入れ替わりがあって、毎年10位ずつキャンセルしていって、毎年10位ずつ増えていく。発表する順番は、編集から何ページ、いつ締切ですと言われると、それに当てはまりそうなものから選んで決める。


天使かもしれない 第1回扉Q6.『YOU』の「天使かもしれない」は先生の初めての原作ですが、どういう経緯で原作を書くことになったのですか?

A6.先ほどのお話のように、描きたいものはたくさんあるけれど、手がおいつかない。誰かに原作を提供しようかと思っていた。作画の波多野裕さんはアシスタントをしておられる方で、とても上手なのだけど、描くのが遅い。だから短いものしか描けない。「男しか描きたくない、それも2~3人まで」という注文を受けて提供した。

Q7.「ポーの一族 春の夢」を描くに至った経緯を教えて下さい。

A7.「ポーの一族」は人気があって、ずっと皆さんから「続きを」と言われていたのですが、絵も変わってしまったし、描けないとお断りし続けていた。でも夢枕獏さんが会う度に「描いて欲しい」と言ってくださって。「待っているから」とまで言われると、描こうかなという気になる。でも気づいたら還暦を超えていた。『flowers』の編集から、15周年記念なので16ページの読み切りを、と依頼された。体力のあるうちに1本描いてみようと思った。

ところが考えているうちに、どんどん話が広がってしまい、「すみません、32ページください」「はい、いいですよ。」「やっぱり40ページください。」「はい、いいですよ。」「上下で。」「同」「いや、第1回で。」...となっていきました。

ポーの一族 春の夢 予告編集部から予告(カット)を入れて欲しいと言われて、見たら普通の原稿の大きさで。普通予告ははがき大なんです。「何考えてるんだろう」くらいの気持ちで出したら、あんなに大きく使われていた。

〔「ポーの一族 春の夢」が載った〕『flowers』はおかげさまで売れたようだ。普段35,000部を50,000部に増やして、それでも足りずに15,000部増刷、電子書籍も。先日何かのパーティで編集者が「販売部には10万部って言ったんだけど却下された」と言っていたが、他の人が「詰めが甘かった」と言われていた。

ストーリーについては、第二次世界大戦中のお話が描きたくて、いろいろ調べていた。


Q8. エドガーは40年ぶりに復活したが、「ポーの一族」の最後、アランが消えて、エドガーはどうなったのか?また、「ポーの一族 春の夢」にはバラがないのはなぜ?

A8.エドガーはどうなったのか曖昧な終わり方をしている。自分はエドガーはどこかさまよっているのではないかと思っている。

「ポーの一族 春の夢」はバラのない冬の季節だった。ウェールズ地方の植物分布図を調べていたら、バラが出てこない。そのかわり、スノードロップ(雪割草)があるので、それと絡めた話にした。それで女の子の名前を「ブランカ(白)」にした。

今年初めの頃〔2月〕、笠井叡さんの「冬の旅」という公演を見に行った。シューベルトの歌曲とミュラーの詩が美しく素晴らしい公演だった。「冬の旅」には「春の夢」という曲があり、そこからタイトルをもらった。


Q9. 萩尾先生の死生観、老いることへのお考えを教えてください。

A9. 思春期から20代までは「生きているうちにやりたいことをやっておきたい、描きたいものを描いておきたい」という切羽詰まった想いが強かった。ところが30歳のときにソビエトで交通事故に遭って頭をうち、ポトキン病院というところで2週間も意識なく昏睡していた。無事生き延びたのだけど、そのとき「あぁ、やはり人間は死ぬのだ。でもどうせ死ぬのだから、死ぬかもしれないと思いながら生きるのはやめよう。」と開き直った。

「老いについて」。毎年4月に「ゆきのまち幻想文学賞」の授賞式が青森であって、授賞式のパーティはお金を払えば誰でも参加できる。このパーティに参加した80歳代の男性のお話。その人は北海道で一人暮らしをしていて、身の回りのことは出来ているが、とにかく人と話をしなくなる。「交通費、宿泊代、パーティの費用、併せると年金暮らしにとっては高い金額だけれど、人と話しがしたくて、来ました」と言う。「75歳までは一人暮らしが出来るが、その後は難しい。身体が動かなくなるのではなく、頭が動かなくなる。」とのこと。できれば、直前までピンピンしていて、コロリと死にたい。


ユニコーンの夢 扉Q10.「ユニコーンの夢」はスクリーントーンを一切使っていないが、それはなぜか?「AWAY」の一紀はフロルのような女の子だが、それは意図したものか?

A10. ちょうど引っ越したばかりで、たまたまスクリーントーンがなかったから。
「AWAY」の一紀は元気な女の子を描いてみたかった。フロルほどはちゃめちゃにはならなかったけども。

「漫勉」の話。収録は2015年の10月頃。萩尾宅にきたスタッフは11人だった(「11人いる!」)。最初は「朝から丸1日だけ」との話が結局3日間ほどかかった。スタッフは「何も要らない、ホテルも用意しているから」と言うので放っておいたら、本当に飲まず食わずで、こちらが仕事を終える午前2時まで撮影している。翌日から何か簡単に食べられるものを用意した。

------会場からの質問(順不同です)----

Q11. 写真や映画、文学などいろいろなアートがあるが、マンガだからこそというのは何でしょうか?

A11. マンガだから出来るのは、キャラクターと心情ではないか。キャラクターの表情や言葉で伝えたいことをダイレクトに届けることが出来る。


Q12.先生の作品はドイツやイギリスなどヨーロッパを舞台にしたものが多いですが、これから描いてみたい国や行ってみたい国はありますか?

A12. 今は「王妃マルゴ」を描いているため、16世紀のフランスのことで頭がいっぱいだが、もう一度行きたい国だったらガラパゴス諸島。ガラパゴス諸島には小さい島がいくつもあって、その荒々しい自然や、それぞれの島で異なる植生や生態系があって、すごい。アフリカのケニアやタンザニアにも行ったことがあるけれど、こちらにももう一度行ってみたい。大自然の中で生きている動物たちを見たい。


青いバラQ13. 昨日「フラワーズ」の15周年記念のイベントに行ってきて先生の原画を拝見しました。『フラワーズ』7月号の表紙のイラストに「青いバラ」という名前がついていたのですが、どういう意味でつけられたのでしょうか?

A13. 青いバラは「この世に存在しないもの」の象徴なので。


Q14. 先生の好きなキャラクターベスト3は何ですか?

A14. フロル、オスカー、エドガー、あと、レオです。(一つ追加されてます)


Q15. 最近の野田秀樹公演は何が好きですか?

A16. たくさんありますが、最近のでは「MIWA」がいいと思います。

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