作品目録

シュールな愛のリアルな死

メッシュシリーズ 11

初出誌
「プチフラワー」1984年5月号~6月号
前編:1984年5月号(1984.5.1) p189~238(50p)
後編:1984年6月号(1984.6.1) p197~236(50p)
登場人物
メッシュ:両脇だけ白銀という二色(メッシュ)の髪をもつ金髪の少年。
ミロン:メッシュの面倒をみている贋作画家
カティ:ミロンの恋人
マルセリーナ(マルシェ):メッシュの母親
ルビエ:マルシェの再婚相手
ルイード:ルビエの息子
アランじいさん:マルシェの父親、ミロンの祖父
パジャン:ルイードの旧友
エーメ:メッシュの義母
ホルヘス:メッシュの父親
あらすじ
カーニバルでのファッションショーの写真が本に小さく載った。その時のメッシュの写真を見たという男がアパートに電話をかけてきた。男は「フランソワーズ」というメッシュの本名を知っていて、「マルセリーナ」というメッシュの母親の名も知っている。しかもマルセリーナの「娘」とメッシュを呼ぶ。
不審に思ったメッシュは女装して男の呼び出しに応じる。男はルイードと名乗り、マルセリーナの義理の息子だと言う。母親は死んだと聞かされていたメッシュは驚く。母親に会いに行かないかと誘われたが、混乱したメッシュは断る。
ところが、アパートに帰り、ミロンとエーメが時々会っていたこと、ミロンがエーメからお金をもらっていたことがわかってミロンと大喧嘩になり、アパートを飛び出してルイードの誘いにのってしまう。
列車はロレーヌ地方の聖モーゼルという田舎に着く。そこで再会した母親は、夢の国の住人だった‥。
コメント
メッシュ・シリーズ最終回。シリーズの最初の2回でいったん終わった、メッシュとホルヘスの父子関係に再度メスを入れます。そのきっかけがついに登場したメッシュの母親です。そして、メッシュの複雑な過程に関わる全ての人が登場し、ねじ曲がってしまった父子関係にわずかながら転換の方向が見いだされ、ようやくメッシュにホルヘスの行動を理解させる事情が判明します。
マルシェという夢の世界の住人も父親のホルヘス氏に負けず劣らず強烈なエゴイストでした。この夫婦、うまくいくわけがなかった。男の子であるメッシュが何故「フランソワーズ」などという女名をもつのか、この強烈な母親のおかげです。
それにしてもマルシェというのは複雑な人物です。うまくいかなくて離婚した筈なのに、ホルヘス氏の迎えを待っている。父親を独占する弟のアベルを憎んで死を望む。家の役に立つならばとホルヘス氏と結婚したくせに、結局離婚してしまう。家の犠牲になって結婚したという感じも正直しません。
「おまえがいつか父親を殺すことがわかっていた」とは結局のところ誰のことなんでしょうか?「アベルが父親を殺す」の意味だと思いましたが、「アベルが父親を殺すから、その前に自分がアベルを殺そうと思った」の意味かとも思いました。
戦前は城までもって羽振りの良かったマルシェの実家ですが、父親がナチに組みしたため、没落。ローザンヌ地方らしいお話です。この祖父と祖母が生きていたおかげで、わずかですが、メッシュにも血のぬくもりが感じられたお話でした。
ミロンに出会ってからあまり暴力にはあわず(とは言え、ジェルダンやルシアンはいましたが)、明るく過ごして来たメッシュですが、ミロンと大喧嘩した途端、また大きな暴力に出会ってしまう。「斧でコナゴナに切り刻まれる」メッシュは後のジェルミのように痛々しいです。
「おまえが死ねばよかったのだ」と罵られた少年時代のミロンと母親から否定されたメッシュ。二人が結びついたのは偶然のようですが、決してそうではなかったのでした。
「自分とは関係のない存在」だと思ったり、自分には何の関係もないのに、その人物から生まれたというだけで、あれこれと考えなければならないことで悩む。それでもメッシュは母親の望みをかなえてやりたいと何故思うのでしょうか。
あなたがそうと望むなら
花にも 鳥にも 娘にも
この姿を変えたのに
たとえば千の死体にも
それは愛ではないにしろ
ミロンは身長が高いせいか、意外と喧嘩も強いです。やはりメッシュも暴力に対抗出来る体力をつけなきゃダメってことですね。
いつもメッシュを庇うミロンですけど、カティの前ではただのマザコンです。迫力あって、大きくて、マザコンのミロンにはお似合いです。この新しいパートナーの導きで、ミロンもまた新しい世界へと旅だって行くことになります。
これは美しいラストシーンです。萩尾作品の中でも一、二を争う美しさです。右と左に去っていく電車が映画のようです。メッシュはこの後どうなってしまうのでしょう。初めて読んだ時はこんなことを考えていました。
  • 1. ミロンが引き返して来る。
  • 2. あるいは次の電車に乗ってミロンを追いかけてヴァロリスへ行く。
  • 3. さもなくばアパートに帰ってミロンの帰りを待つ。
でも本当はその時もわかってはいたのです。メッシュはもうミロンの元へは戻りません。そして父親のところにも帰りません。一人で生きていくのです。
しかし、かっぱらいしかやったことがないメッシュに何が出来るんだろう?ほかにあるとしたらモデルくらいなもんじゃないですか。でも、まぁ、これで食べて行けるかもしれませんけど。またチンピラに逆戻り? それはないでしょう、喧嘩弱いし。生活力ないなぁ。学校に入り直すとは思えないし…。
でも、やっぱり、これはメッシュの旅立ちなのです。だから美しいラストシーンなのです。
収録書籍
シュールな愛のリアルな死 メッシュ7


シュールな愛のリアルな死 メッシュ7 小学館 1984.8

萩尾望都作品集・第二期 第14巻 メッシュ 4

萩尾望都作品集・第2期 14 メッシュ 4 小学館 1986.1

メッシュ 第3巻

メッシュ 第3巻 白泉社文庫 1994.12

萩尾望都パーフェクトセレクション 5 メッシュ II

Perfect Selection 5 メッシュ II 小学館 2007.10.31

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