作品目録

シャンプー

シリーズ・ここではないどこか 第17話

初出誌
「flowers」2010年6月号(2010.6.1) p77~116(40p)
登場人物
浦島舞:大学生で小説を書く。夜羽根が好きだが、自分に自信が持てず積極的になれない。
天草夜羽根:舞の大学の友人。外見が派手で調子がいいため周囲に誤解されやすい。
生方正臣:小説家。舞の通う大学で臨時講師を務め、彼女の小説にアドバイスする。
戸田美津絵:生方のゼミの学生で小説を書く。
あらすじ
浦島舞は同じ大学の友人・天草夜羽根に片思いをしている。夜羽根は外見が派手なのでたくさんの女の子にチヤホヤされていて、舞は気が気でない。今日も美女に「実家の温泉」にご招待されていたりする。温泉へ遊びに行くために出来ないレポートを舞に調子良く頼んで来た。仕方なく引き受けて書いたが、お土産だという温泉まんじゅうを舞は素直に受け取れない。温泉に行った夜羽根につい怒ってしまうが、「僕たちそんな関係じゃないでしょ」と言われ、傷つく。
舞は小説を書いていて、商業文芸誌で賞を取り、デビューしている。大学で講師の小説家・生方の指導を受けているが、この生方に戸田という生徒も指導を受けたいと言って来た。戸田はいつもコロンやトワレを使っていて香りに敏感なようだ。舞は戸田に「カビ臭い」と言われ、さらに傷ついて、自分の片思いを嘆くのだったが…。
コメント
「海の青」「水玉」の続編。連作のテーマは“片思い”で、少女漫画の王道のテーマなのですが、この片思いにおける心の動きが“絵”になっているところが、ただの片思いの少女漫画とは一線を画しているのではないかと思います。冷たくされて「つらい」、ちょっと優しくされて「うれしい」といった感情や、「思い切って告白」といった恋の大事な局面が“水”を主題にした絵で表現されています。
舞が「自分は人魚姫で夜羽根は王子」という設定にしているので、常に海や魚がベースになった“水”が度々登場します。そして、キリキリと布から搾り取られる水や襲いかかる水が感情の流れを表現しています。先の「ゲバラ」も海の中の生物が多く登場していました。何か先生の最近のこだわりなのかもしれません。
ところで、この天草夜羽根という人物は興味深い。外見が派手で調子が良いので女の子に囲まれていますが、ただの貧乏学生です。チヤホヤされるのは好きだけれど、自分の実像を見ない人には興味がない、という面があり、意外と何らかのコンプレックスを持っているのかもしれません。それが繰り返される舞への「今日も僕のこと好き?」という問いかけになるのかもしれません。
前作「水玉」で舞に嫌われたと思ったら、授業をさぼってカーテン生地を買いに付き合ったり、舞が戸田美津絵にどんな嫌がらせを受けているのか即座に理解し、上手にフォローして自分への気持ちを盛り返させるところなど、見事なプレイボーイっぷりなので、舞はすぐにやられてしまいます。でも、決して悪い感じはしないのです。
夜羽根は舞を振り回していますが、友人には世話を焼かれたり、間抜けな顔を晒したりといった感じで、意外と好感が持ててしまうから不思議です。ひょっとしたら、萩尾先生はこの夜羽根という人物が気に入っていて、連作されているのかもしれない、などとふと考えてしまいました。

2010.4.28

収録書籍
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