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物語るあなた 絵描くわたし―萩尾望都対談集 1990年代編

物語るあなた 絵描くわたし

物語るあなた 絵描くわたし

著者萩尾望都
出版社河出書房新社
刊行年月2012.11.30
頁数258p
定価1,470円
ISBN978-4-309-27367-9

目次

第1章中島らも「恐怖の快感」『青春と読書』1991年11月p7~20
第2章夢枕 獏「小説をマンガで描く愉しみ、マンガ化してもらう悦び」『ダ・ヴィンチ』1999年11月号p21~38
第3章森 博嗣「創作のきっかけは萩尾作品」「森博嗣のミステリィ工作室」1999年3月18日p39~59
第4章氷室冴子「空想からの発想」「氷室冴子読本」1993年7月31日p61~77
第5章ささやななえ「マンガ今昔物語」「ささやななえ自選集①」1997年5月13日p79~102
第6章巖谷 國士「マンガ独特の体験」『imago』1995年4月号p103~184
第7章東村アキコ「私の人生を変えた萩尾作品」語りおろしp185~239
マンガ「わたしのデビュー時代」『Comic Seventeen(コミックエスティー)』1985年1月号p240~251
あとがき「物語るあなたがた」 萩尾望都p252~253
1990年代編は小説家と漫画家です。漫画と小説の表現の違いについて、度々話題に出ます。萩尾先生はこの頃には巨匠としての漫画家の地位を築かれておりますので、森博嗣さんや氷室冴子さんのように創作活動に入る以前に萩尾作品を読んでいたという作家さんが登場します。ですが、ほとんど同世代の方が多い対談集で、とても堅苦しくない感じも出しています。
一方で、羽海野チカさんや東村アキコさんのような若い漫画家さんが、もちろん萩尾先生のことは尊敬しているけど、同じクリエイターである、という矜持を見せてくれるので、たいへん楽しい対談になっています。萩尾先生も若く才能のある方が好きだから、楽しそうです。
しかし、この対談集の目玉は実は『imago』のロング対談です。
帯のイラストは『月刊ASUKA』1992年10月号のカレンダー。極彩色でステキです。
中島らも
今回はこの対談だけ読んだことがありませんでした。漫画家さんは本当に怖い話が好きですよね。私は嫌いですが、でも霊感とか全然疑っていません。自分がわからないことは普通に世の中にあるので、その中の一つということで理解しています。らもさんとの交流はこの後も続き、小学館文庫「11人いる!」の解説を書いていただいたり、トークイベントに出たりされ、中島さんの没後に出された「ユリイカ」の特集号に萩尾先生がエッセイを寄せたりと、ずっと続くことになります。
夢枕 獏
夢枕獏さんは萩尾作品が大好きな小説家の一人として知られています。プライベートでも夢枕獏さんとは一緒に陶芸をされています。
この対談で私が一番ウケた図版は、板垣恵介版「餓狼伝」のお互いの気がぶつかって背景が歪んでいるシーンでした。萩尾先生の「デビルマン」は退廃的で美しいデビルマンです。カラーでお見せしたい。
森 博嗣
森博嗣さんが「すべてがFになる」でデビューしてとても話題になっていた頃、ミステリー好きで漫画の詳しくない男性に「萩尾望都って誰?」と聞かれたことがありました。おそらく、早いうちから萩尾ファンであることを語っておられたご様子。とても熱弁をふるわれるので、同じファンとして、あなたならまぁいいでしょう的な目線を送っていたら「トーマの心臓」の小説化を出されたりして、萩尾ファンでこの方を知らない人はいない人物になられました。
氷室冴子
「トーマの心臓」と「聖書」の関係を萩尾先生はまったく考えておられなかったご様子ですが、氷室冴子さんがわかりやすく説明してくれていますので、「トーマ」好きなら一度読んでおいた方が良い対談だなとずっと思っていました。
当時、萩尾先生が大人の女性の悩みを直接的に描いたものは確かに少なかった。「少女のトラウマ」にこだわり続けたのですが、この対談の行われた年に発表された「イグアナの娘」で解放されたようで、「午後の日差し」を描かれたり、「ここではない★どこか」シリーズでさまざまな女性が登場したりするようになります。
ささやななえ
ささやななえこさんは萩尾先生にとっては古くからのお友達の一人。萩尾先生の方から北海道まで会いに行かれた話は有名です。この対談、萩尾先生がとても楽しそうで、最も好きな対談の一つです。
城さんは最初から萩尾宅を仕切っていらしたんですね。みんな経済観念がなかったんだなぁ。初期の騒々しくも楽しい時期のお話が多く、こちらも楽しい気持ちになりますね。
冒頭で『りぼんコミック』が登場しますが、「りぼんコミックス」ではなく雑誌です。これも後から出ますが『コミックエスティー』同様レアで、あってもお高い、少女漫画史における重要な雑誌でした。
巖谷 國士
この対談、非常に長い。本書の1/3を占めていますが、もともと『imago』でも長くて驚きました。
手塚治虫「新選組」は萩尾先生が漫画家になろうと決意したというお話に度々登場しますが、何故他の手塚作品ではなく「新選組」なのか、という点を詳しく論じておられます。「精霊狩り」「小夜の縫うゆかた」「残酷な神が支配する」「あぶない丘の家」など多数の作品に触れられ、実り豊かな対談となっています。特に手塚治虫の系譜が萩尾望都という漫画家へどのように連なっていくのかを細やかに解説してくれています。
昔の萩尾先生の作品は母親が不在か、死んでいることが多く、正面きっての母娘の関係が出てきません。それは「お母さんが嫌い」だったから、とここではっきりおっしゃっていますね。
東村アキコ
東村アキコさんと萩尾先生の交流は「ママはテンパリスト」を連載で読んでいたので、大笑いしました。「ひまわりっ!」も連載で読んでいたので、「ぺーの一族」が出たときにひっくり返りました。このページ、単行本が出るまで切り取ってもっていましたね。そう言えば、うちには東村アキコ単行本が「ユカちゃん」の連載当時から全部あります。その後の連載も全部連載誌で読んでいます。なので「かくかくしかじか」がこれからじっくりと描かれるのだろうということがわかって、とても楽しみです。
また、「ユカちゃん」の途中までお母さんがアシスタントされていたとは初めて知りました。さすがお子さん二人が漫画家になってしまったお母さんですね。あのネタ的におもしろいお父さんのせいかと思っていました。両方かな?

萩尾先生は昔から本当に若い世代の作品の研究に熱心ですが、東村アキコさんに目をつけられたのは、お目が高いなと思います。一方、東村さんも「山へ行く」が良いとおっしゃっていて、これもまたお目が高い。このシリーズにはとんでもなく高い評価の作品もありますが、シリーズ第1作の「山へ行く」が良いとおっしゃるのは、クリエイターならではなのかもしれません。
萩尾先生は尼~ずの総長だったのか。確かにそうかもしれませんね。
「わたしのデビュー時代」
『Comic Seventeen(コミックエスティー)』のこの号は本当に10年近くずっと探していますが、なかなか古書市場に出てこないのです。印刷部数がとても少なかったのかもしれません。単行本などにも収録されていないので、発売時にリアルタイムでご覧になった方しか読んだことがないと思われる、たいへん貴重なコミックエッセイです。私もコピーでしか見たことがありませんでした。こうやって多くの人の目に見てもらえるのは、素晴らしいことです。
「わたしのデビュー時代」というのはこの雑誌の連載でした。深見じゅんさん、ささやななえさん、粕谷紀子さんらが描かれています。これは萩尾先生の「まんが道」ですね。

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