作品目録

オイディプス―メッセージIII

シリーズ・ここではないどこか 第12話

初出誌
「flowers」2007年9月号(2007.9.1) p63~78(16p)
登場人物
オイディプス:テバイの王

あらすじ
テバイの王ライナスは昔「決して結婚してはならぬ」と神託を受けていたのにイオカステと結婚してしまう。そのため「生まれた子は父を殺し母と結婚するだろう」と神託を受け、その子の踵をブローチで刺し、従者に子供を渡してキタイロンの山中に置き去りにするよう命じた。従者も子供を殺すことはできず、キタイロンの山中にいた羊飼いに子供を渡し、遠くへ連れ去るように頼んだ。コリントス王ボリュポスとその妻メロスが子供が生まれなくて困っていたため、羊飼いはその子を二人に渡した。成長したオイディプスは「両親を殺すため故郷に近寄ってはならない」との神託を受け、コリントスを去る。
テバイの町にたどり着いたオイディプスは怪物スフィンクスを退治してテバイの町を救った。ライナス王はポキスの三叉路で山賊に殺されてしまっていため、夫を亡くしたばかりのイオカステと結婚し、テバイの王となった。二人の男児と二人の女児をもうけ、幸せに暮らしていた。
しかし、オイディプスがテバイの王になって以来不作と疫病が続いた。不作と疫病はライナス王を殺害した「悪しき者」を追放せよという神託を得た。オイディプスはテバイに来る前に、輿に乗った老人を満ちをどけどかぬのつまらない小ぜりあいのあげく殺してしまっていた。不安になったオイディプスはライナス王殺害をテバイに報せた従者を探して連れて来させた。その従者はオイディプスをキタイロンの山中に捨てる事を命じられた従者と同一人物であり、オイディプスはここですべてを知らされる。
そして、イオカステが自殺したところからこの作品は始まる。オイディプスがブローチで両目をついて盲目となり、テバイから自ら追放されるのだが、両目をつこうとしたまさにその瞬間に、突然現れた男に止められる。「何も知らなかったオイディプスに罪はない」と言うのだが…。
コメント
勢いにのってオイディプスが真実を知る直前のところまで延々と書いてしまいましたが、有名なオイディプスのお話です。ある男が「知らなかったオイディプスに罪はない」と繰り返し説得するのですが、この男は「ここではないどこか」シリーズの「メッセージ」「メッセージ2」に出てきたのと同じ男です。だから「メッセージ3」なのですが、「ここではないどこか」の中のさらなるシリーズのようです。
「知らなかったのだから罪はない」のならテバイの災厄は、そのときはまだ知らなかったけれど、やはりオイディプスの罪のせいとする、もとのお話が破綻してしまうのですが、あえてそこに挑戦したような、それでいてやはり「知らなくても罪はある」という結論のような、そんなどちらともとれる作品だと感じました。
「知らないが故の罪」とは萩尾先生の作品に時折登場します。最近では「残酷な神が支配する」のイアンですよね。ジェルミが虐待されていることをずっと知らなかったイアンが、それを知ったときのあの静かなシーンは萩尾作品史上最高の一場面だと私は思っているのですが…。いわばあそこから物語が始まっているかのような、イアンの贖罪のためのストーリーかのような、そんな思いがしたものです。
それよりは少し軽い作品になるかもしれませんが、私は「メッシュ」シリーズの「苦手な人種」のポーラをいつも思い出します。(この人、ちょっとサンドラに似てますが)。彼女は人を殺しているのですが、自分はそうとは知りません。つまり事故なのですが、自分が行ったちょっとした行動がその事故を引き起こしているのです。この男は妹をレイプした男なので、罪をあがなうべくは男の方だということで、知らないうちに断罪したことになります。「この罪を知らない幸せな姉」は非常に印象深く、忘れられない登場人物でした。
上記を考えると、やはり「知らなくても罪は罪」というのが結論だと思うのですが…。それにつけても、こんな大きなテーマに16ページで挑む萩尾先生のチャレンジ精神と、またその仕上がりの完璧さに感服しました。
収録書籍
スフィンクス

スフィンクス(フラワーズコミックス)小学館 2009.12.15

入手しやすい本作品収録の単行本 スフィンクス

スフィンクス(フラワーズコミックス) 小学館 22009.12.15

amazonで購入する

青いドア

バースディ・ケーキ