2012年11月20日

TBSニュースバード「ニュースの視点」にインタビューで登場

2012年11月19日の15:05~15:45(再放送21:00~)CS放送TBSニュースバード「ニュースの視点」萩尾先生が登場されました。No.1721「マンガが原発事故を語り始めた」というタイトルで、原発を取り上げた漫画作品の特集です。中でも萩尾先生のインタビューがメインでした。

放送時間は40分弱でしたが、たいへん素晴らしい番組でした。有料のCS放送で見ることが出来た方が少ないのではないかと思いましたので、レポートにまとめました。萩尾先生のインタビュー以外の部分は少し省略していますが、先生のご発言はそのままテレビで放映されたものです。長いので、面倒な方は青い文字赤い文字だけ追って下さい。


〈最初に何冊か、福島原発を取り扱った漫画作品が登場し、解説〉

「あの日からのマンガ」しりあがり寿(エンターブレイン)2011.7.25
→原発事故以後の作者の日常生活を描いた四コマ漫画と短編漫画

「僕と日本が震えた日」鈴木みそ(徳間書店)2012.3.2
→作者自身が一人の生活者として自分のまわりでなにが変わったのか、さまざまな葛藤を描いている。正確な情報を伝えることにも努めている。作者の言葉"恐怖から逃れる一つの方法は正しく知ることだ"

「深海魚」勝又進(青林文芸舎)2011.10.30
→原発作業員の過酷な状況を描いた作品。

「原発 幻魔大戦」いましろたかし著 ビームコミックス(エンターブレイン)2012.2.25
→脱原発活動に自ら参加した作者のことが描かれている

○チェルノブイリ原発事故を扱った海外の作品
「チェルノブイリ 家族の帰る場所」フランシスコ・サンチェス〔文〕、ナターシャ・ブストス〔絵〕、 管 啓次郎〔訳〕朝日新聞社 2012.3.2
→スペインのグラフィック・ノヴェルで、チェルノブイリ原発事故により家族がばらばらになっていく姿を描いている、ドキュメンタリー風の作品。

「みえない雲」グードルン・パウゼヴァング〔原作〕、アニケ・ハーゲ 〔画〕、高田ゆみ子 〔訳〕小学館 2011.10.6
→ドイツの漫画でチェルノブイリ原発事故の翌年に発表された小説をコミック化したもの。ドイツの脱原発のきっかけとなった本。原作者の日本向けの言葉が載っている。


「なのはな」萩尾望都(小学館)について。まず、萩尾先生のご紹介、続いて紫綬褒章受賞のときのインタビューが少し入ります。

【インタビュー】(多分小学館の会議室)
萩尾先生(以下・萩尾)「事故が起こったころは気持ちが落ち込んでしまって、本当に何も考えられなくなって、創作的なことも一切考えられなくなってしまって、どうしていいかわからない状態だったんですね。」

ナレーション(以下・ナレ。映像は本の表紙や中身のカット)「震災で祖母を亡くし、原発事故で帰れなくなった福島の少女の物語。ある日、夢で出会ったチェルノブイリの少女が菜の花の種を蒔いて花を咲かせていくのを見る。夢の中で種蒔き器を受け取った少女は、いつか故郷に帰り、菜の花を植えると決意する。」

萩尾「知り合いの人からチェルノブイリでもこういう事故が起こったときに汚染された浄土を改良するために、いろんな植物を植えているらしいよという話を聞いて、じゃあずっと土壌が汚染されて、何も住めなくなる、誰も近寄れなくなるという状態が永遠に続くわけじゃないんだ、まだ何か改良する余地があるんだと思って、すごい希望がもてたんですね。
それでインターネットで調べてみたら、チェルノブイリでももう何年もそれをやっているし、福島の方でもすでに何か土壌を改良しようという動きが始まっている。これは事故が起こって、こんなふうに放射性物質がまき散らされて終わりじゃないんだ、これから何かすればいいんだ、ひまわりとか菜の花を植えるとか思いついて、どうしても菜の花を植えるという話を描きたくなって、それでこの作品になりました。」

ナレ「そのほかの「夜の雨」「ウラノス伯爵」や「プルート夫人」などは、萩尾さんのお得意のSFでプルトニウムやウランをそれぞれ擬人化して、人間との切っても切れない関係性を描いた作品だ。いかに人間が原子力に依存しているかがよくわかる。」

萩尾「「なのはな」は私は九州育ちなんですけど、田畑に菜の花を植えるんです。菜の花と蓮花と。だから春になると黄色とピンクの野原が広がる、すごいきれいな印象があるんですね。だから実際に見たことがある、きれいなものを絵に描いてみたい。背景に悲劇があるにしても、それが希望につながるといいなと思って、それで「なのはな」になりました。」

ナレ「「なのはな」の後書きに書かれた萩尾さんの言葉。「世界が終わらないように、世界が次の世代に続くように、願っています。」


【スタジオ】

齋藤解説委員(以下・齋藤)「先月福島第一原発に行ったのですが、原発に近づいていくと、途中、菜の花ではないのですが、セイタカアワダチソウという外来種の黄色い花が生い茂っているんですね。田んぼや畑だったところに。これは本当に人の手が入らなくなって放っておかれた状態で生えてしまったわけなんですけれども、その黄色い花が花畑に広がっていたという話を萩尾先生にしたら、ものすごく興味深く聞いて下さって、自然の力が働いているのかなとすごく思った。」

「もともと、この「なのはな」は『flowers』という雑誌に発表したんですが、この雑誌自体は30代の読者が中心だったのですが、実際に反響は小学生から70代の女性・男性にものすごく幅広くあった。その反響について編集を担当した方にお話を伺っています。」


【インタビュー】

小学館『flowers』山内靖子編集長(以下・山内)が読書カードを読み上げる。「中学生の頃から萩尾先生の大ファンです。現在52歳です、という方。」「社会問題を取り上げる姿勢に敬意を表します。」(「出版社に届いた読者の手紙」を見ながら)「なんとなく気になってはいたけれど、どういうふうに形にしていけばいいかわからなかった。」

齋藤「反響はどうですか?」

山内(大きな封筒から原稿用紙を取り出し)「これ、いただいたばかりなんですが、中学生がみんなすごく素直に「いろいろ考えました」と言って真面目に「原発はなるべく減らせるといいな」とか、「でも実際には難しいよな」とか、すごくいろいろ考えて送ってくれましたね。」

齋藤「なんか、学校の授業で取り入れられているとか?」

山内「そうですね。これは先生が国語の授業で生徒に読ませて感想をと言うことで。同じ東北の子たちなので、青森だからちょっと離れているけれど、同じ東北の人として何かもっとこれからやっていきたいと。なんかすごく素直な、こういう若い人たちに読んでもらって考えてもらって、いいなと。」

萩尾「いいですね、本当に。」


【スタジオ】

齋藤「学校の授業の教材に使われているということで、予想以上の反響があったということなんですね。萩尾さんてこういうノンフィクションに近い作品を描くということはあまりないんですよね。」

松原千晶キャスター(以下・松原)「そうなんですよね。思春期の少年少女の葛藤を描かれていたので。」

齋藤「原子力の歴史をひもといて勉強されていて、キュリー夫人が発見した放射性物質の話から始まって、人間が放射能を使っていく過程など、すごく勉強されている。だからうまく描けるんだなという感じもしました。漫画家である萩尾さんに原発の話を聞くというのも変な話なんですが、実際萩尾さんが原発というものを考えているか、お話を伺っています。」


【インタビュー】

萩尾「エネルギーを出しているだけなら本当に良いんですけれど、結局使い終わったエネルギーの行き場がない。誰も近寄れない。これはいったい何だろうっていうのがあって、結局、深い地下に埋めるしかない。もしくは「もんじゅ」のようにリサイクルして使うしかないというけれど、「もんじゅ」でも事故が起こって、今それは中止になっているような状態で。だから、本当に人間が扱えるんだろうか、単なる科学力だけならいいけど、被ばくしてしまう放射性のエネルギーを本当に人間は安全に扱えるんだろうか、というのはすごく懐疑的なんです。」

「核分裂が起こって、プルトニウムができた。毒性の強いものをどうすればいいのか。おそらく世界中でこうすれば良いという結論がまだできていない。多分今の人たちは、先の人が考えてくれるだろうと思っている。今のアイディアは何もない。それが非常に不安で、どうしたらいいのかわからない。だから、そういった放射性物質をどうしたらいいかという情報もないし、多分科学者の人たちにも、こうすればいい、ああすればいい、といういろんなアイディアがある段階で、決まらないんだと思います。でも、どうすればいいのかというのを、もっとオープンに、普通の人にもわかるように、話をして欲しい。」


【スタジオ】

齋藤「萩尾さん自身もすごく勉強されていく中で、やはりもっと情報を、とにかく何でもいいから出せるものは科学者も出して欲しいというのがすごく印象に残っていますね。あと萩尾さんはこの「なのはな」以外に「プルート夫人」という短編を描いているのですが、これはプルトニウムを擬人化した作品なんです。プルトニウムというのは原発の原料となる放射性物質で、危険だとわかりながら、とりつかれていく、美しい魔女のようなものにたとえているんですね。」

松原「こういった擬人化もそうなんですけれど、空想であったりSFであったり、すべての表現を使って伝えられる。やはり報道とは違った視点で真実を読者に突きつけている感じがありますね。」

齋藤「小学生から70代のお年寄りの方も、みんな読めるという、これが意外ともともと少女漫画という分野なんですが、男性も読んでいて、圧倒的にターゲット、年齢層も老若男女に読まれていて、ものすごく影響力があるんですね。」

松原「フィクションもノンフィクションも問わずさまざまなスタイルで伝えていくことができる媒体なんだなと思います。」

齋藤「今回、いろんな漫画をごく一部ですが紹介してきたんですが、萩尾さんが漫画家として、何をするべきなのか、他の漫画家に対するメッセージを含めて、こんなお話をされています。」


【インタビュー】

萩尾「本当にこの事故の前と後では、本当に変わってしまいました。震災だけだったらすごいショックだろうけど、神戸の大震災のときみたいに、頑張って復興すればなんとかなると、思えたと思うんですけれど、今回は鎮まらないものを目覚めさせてしまった、という感じがあって、気持ち的に時々、不安感がすごくわき上がるんですね。」

「だから、(原発事故について)描いてらっしゃる皆さんも、それぞれの不安や心配や、いろいろなことを抱えてらっしゃるんだと思います。これは描いている人も、それから描いていない人もそうじゃないかと思います。」

「インパクトが強くて逆に、今描きたくないという方もいらっしゃると思うんですよね。だから、描いてらっしゃる方は、それなりに一回自分の中に入れて、息を吐くみたいに、はき出すことができる状態になっているんだと思います。」

「たくさんの人に、実は(原発事故について)描いてほしいです。はい。」


【スタジオ】

松原「萩尾さん自身がいろいろな思いを込めて世に送り出している作品なんですね。」

齋藤「今、インパクトが強すぎてペンをとって描けない人もいっぱいいるんではないかと。だけども、息を吐くようにして、描いていって欲しいということで。萩尾さん自身もこれから描こうと思っている作品について伺ったところ、半分以上は原発を題材にしたものだということなんですね。ただ、連続してそれを出していいものかどうか、少し迷っているところもある。ただ、チャンスがあれば、描きたい、描かせて欲しいんだということをおっしゃっていました。」

松原「最後にですが、冒頭のVTRでもご紹介しましたけれど、今回の原発の事故が起きる33年前に福島原発の恐ろしさを描いた作品が出版されていました。それがこちらですね。」

齋藤「実はこれたまたま去年本屋さんで見つけたものなんですけれど、朝日新聞出版から出された「福島原発の闇」という本なんですが、原発作業員を自ら体験しながら脱原発を訴えてきた、堀江邦夫さんというジャーナリストの方のルポルタージュに、漫画家の水木しげるさんが漫画を描いたというもので、1979年に出版されたんですね。当初は『アサヒグラフ』という雑誌で出たのですが、原発事故を受けて、去年復刻版が出版されました。定期点検中で原発内で作業する労働者を描いたものなのですが、33年前ですが、線量計の故障に気付かずに仕事を続けていたり、被ばく管理のいい加減さというものが今回かなり出ましたよね。
当時からずさんな被ばく管理の実態を告発したりしているんです。この事故が起きた33年前に危険性を訴えていたのですが、水木しげるさんも作品を描く前にものすごく緻密に勉強される方なんですね。原発内部を見たわけではないのですが、いろいろな人から話を聞いて再現している。ものすごくリアルに、しかも説得力のある画像になっています。」

松原「おどろおどろしさが本当に伝わってくるんですね。あらためてなんですが、漫画の伝える力って何だと思いますか?」

齋藤「僕はやっぱり漫画って持ち運べるじゃないですか。これは一番大きいなと思うんです。持ち運んで何度でも繰り返して読めるという。あと絵ですよね。絵で伝えるという漫画本来のわかりやすさなんですね。それから、自分が子供の頃に憧れた漫画を描いた方が、今度は原発事故を題材にして描くということで、自分自身も読みたくなるし、自分の子供や孫といった世代にも漫画を読ませたい、伝えられるという、世代を超えた良さというものが漫画にはあると思う。」

松原「絵でインパクトがあって、活字で伝わってきて、さまざまな伝わり方がありますよね。」

齋藤「電車の中で読んでもいいし、寝る前に読んでもいいし、それでいて一つ一つ繰り返し読んでまたインパクトがあり、連鎖的にこれを読んだ作家が、自分もこういうものが描きたい、描いてみようと、萩尾さんがおっしゃっていたように、息を吐くように自分の中に貯め込んでいたものを吐き出すように、こういう漫画をどんどん描いていくんじゃないか。そういう流れがどんどん広がっていくのではないか。それこそドイツを脱原発に導いた「見えない雲」のような流れが生まれてくるのかなという期待をもてる。」
「日本は世界的にもすごくレベルの高い漫画文化があるので、まだインパクトが強すぎて、ショックが強すぎてペンをとれない方が多いかもしれませんが、急がなくてもいいから、いつかペンをとって、自分の話、想いを伝えて欲しいと感じました。」


上記文中、赤字の部分ですが、聞かれたからお答えになっただけだとは思います。録画されたテレビインタビューは編集の妙があるので、その言葉の重みが正確には伝わりにくい。でも、あの萩尾先生が他の漫画家の方へこのようなメッセージを出されるとは、本当に意外でした。漫画界をリードしていくお仕事は、例えばちばてつや先生や里中満智子先生が担っておられ、賛同はするものの、自ら発言なさることのなかった萩尾先生が、このようなオピニオンリーダー的なことをおっしゃるなんて、驚きました。

番組は原発や原発事故について描かざるを得なかった、それぞれの漫画家の想いを興味本位でなく真摯にとらえて作品を取り上げた、とても好感のもてるものでした。これがCS放送だから出来ることなのかもしれませんが、地上波デジタルで放送して多くの方に見てもらいたいと、切に願います。

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