2018年8月 2日

女子美オープンキャンパス2018の萩尾先生公演レポート

女子美7201号室2018年7月15日(日)女子美術大学のオープンキャンパスで萩尾望都先生の特別講演が開かれました。講演のレポートをお送りします。毎回のことですが、メモと記憶から起こしているので間違いや抜けたところはたくさんあると思います。あらかじめご了承ください。

暑い日でした。萩尾先生も「歩きながら蒸しパンになりそうでした」とおっしゃっていました。内山先生と萩尾先生が登壇され、内山先生が萩尾先生をご紹介されました。その中で「ポーの一族」が宝塚で上演されたお話をされていて、萩尾先生が「手前味噌ですみませんが、素晴らしい舞台でした。」とおっしゃり、内山先生が「宝塚の『ポーの一族』を観に行った方」と呼びかけると、かなり多くの手があがりました。萩尾先生が「チケット取りにくかったでしょう、すみません。」と。


女子美術大学オープンキャンパス特別講演
萩尾望都先生漫画の世界「物語を創る・描く」
日時:2018年7月15日 15:00~16:00
会場:女子美術大学 7201号室


この日は「物語を創る」というテーマがあがっていました。「どうやって物語を頭の中につくるのでしょうか?」というところから先生のお話は始まりました。


物語は妄想の一種です。こうあればいいのにという願望や、願いのようなもの。ことばからきれいな物語が浮かんだり、映画を見ていてその結末が不満で、自分でその結末つくりかえて物語をつくったりと、いろいろです。

私の場合は違和感です。人と話していて、「そうだよね」と思っているときは物語は生まれなくて、「違うな」と思ったとき、私ならこんなふうにすると思ったときに物語が生まれます。

●ビアンカ
「ビアンカ」の扉例えば「ビアンカ」はどういうきっかけでできたのかというと、アンナ・パブロワというソ連のバレリーナが子供時代に「森でよく踊っていた」と話したのを聞いたのがきっかけです。「バレリーナ希望の少女が森で踊っている」というイメージがすごくきれいだと思って、森で誰かを踊らせたいとお話をつくりました。

少女が森で一人踊るということは、両親は近くにいないのだろう、などと考えて話ができていきます。少し年上のいとこの女の子の視点から描いたのが「ビアンカ」です。小学校から高校までバーネットや「若草物語」「赤毛のアン」など海外の少女小説をずっと愛読していて、海外のきれいな生活に憧れていました。「ビアンカ」はどこか知らない外国の話で、決して私が育った大牟田の炭鉱町ではありません(笑)。


●トーマの心臓
トーマの心臓 オープニングの2ページ「悲しみの天使」(現在「寄宿舎」)というフランスの男子寄宿舎を舞台にした映画を見に行きました。学校生活がとてもきれいで、少年達が美しかった。主人公の少年が誤解したまま自殺してしまったという結末が悲劇的でした。死んだ子供を取り戻したいと思い、死んだ子供をめぐる話にしました。
トーマは14歳で自殺します。当時私は若かったから若気のはずみで描きましたが、いまだったら絶対こんな設定にはしません。なんてもったいない。いまだったら死ぬ理由がこんなにピュアではなくて、いろいろくっつけてしまいそうです。ベタですが、継母がいるとか。若さの勢いで描いてよかったかもしれないと思います。大人になって汚くなってくると、どんどんいろいろなものがくっついてきますから、この時代でしか描けない話があると思います。

物語を膨らませていくとき、寄宿舎にはどんな人がいるかなと思い、キャラクターをずっと考えていました。いろいろなキャラクターを10人くらい描き流していったら、そのうちいいキャラクターが何人か目力で訴えてきます。いい顔が描けたのでしょう。そのキャラクターの中にトーマもエーリクもオスカーもユリスモールも入っていました。最初は名前もついてないのですが、じっと見ているうちに、だんだんそれぞれのキャラクターがこういう人物であるという、役割分担の作業をしてくれるようになります。

「トーマの心臓」を描く前に見た「寄宿舎」は男子寄宿舎で下級生と上級生が恋仲になってお互いに好きになってしまうという話だったのです。「男の子どうしが好きになってしまうなんて変」と思いながらが「いいなぁ」と思って観ていたのす。「好きだ」と言って死んでしまう子がいて、言われた方(ユリスモールですね)が「男どうしで好きなんて変じゃないか」と最初は思うけども、そのうち好きになっちゃう設定にしてしまおうと考えました。
「自分は知らない」という冷たい子が頭に浮かんで、「冷たい」をキーワードにしてキャラクターをつくりあげていったら、それがすごくおもしろかった。「でもホントは好きなんじゃない?」と思いながらつくっていくと、次第に心を開いてくれます。

「できたな」といういい話は、考え始めてからだいたい一週間くらいでメインの話ができ上がります。その後少し軌道修正したりすることもあります。ユリスモールが「冷たい」過去には何があるのだろう?と考えました。キャラクターがすごくいい感情を発揮したり、すごくいい台詞を言ってくれたりする場合があります。

トーマの心臓 第1回見開きの扉お父さんとトーマが立っていて、お父さんが夕陽を指さしている絵です。描いたときは何の気なしに描いたのですが、後になってそのシーンを何度も思い浮かべているときにわかったのです。二人はすごく重要な話をしていました。トーマはお父さんに「どうして神様は人間が一人では生きていけないような寂しいものにつくったのか」と聞いて、お父さんが「それは人間が永遠にあるために魂をつくった」「誰かを愛さずにはいられないのだ」という話をしています。これは実際に表紙の絵を描いているときには浮かばなかったのですが、何度も思い返しているうちに浮かんできました。


●幼少期の先生のお話
小さい頃はよく漫画を読んでいました。寝てからその日読んだ漫画を全部頭の中でリピートしていました。私は二十歳くらいまでは読んだ漫画を全部覚えていられました。コマ、台詞、キャラクター、何度でも楽しめるのです。写真に撮したように覚えています。たぶん視覚の記憶力がいいのだと思います。
※「この中で漫画全部のページが頭の中に入れる人がいますか?」と内山先生が聞くと会場で一人手をあげる人がいました。

漫画を描くときに「このシーンどうしよう」と思ったら、過去に読んだ漫画のシーンが思い浮かぶ。手塚先生はこんなふうに描いていたなとか頭の中でシミュレートできます。お手本がたくさんあるので助かりました。

●マージナル
マージナル1(小学館文庫)の表紙「地球の未来」というテーマはいろいろな作家が書いていますが、ジョン・ウィンダムなど女だけが生き残ったという社会を描いたSFが多いのです。じゃあ逆に男だけ生き残った社会というのはどうだろう。男だけだから子供は産まれない。そこを何とかやりくりして、物語をつくってみたらおもしろいだろう。第一、男だけならイケメンをずらりと描けるなと思って考えてみました。

女がいなくなった地球の未来はやはり荒廃しているでしょう。みんなドーム都市で生きていますが、ドームの外に村はある。村人たちがドーム都市にやってきて、子供は中央政府が順番に与えていく。ミツバチの女王のような唯一の存在である「マザ」が産んでいるという設定になっているが、なかなか子供をもらえない村人が怒って暗殺に行くという話です。

マージナル ドーム都市どんなストーリー展開にするか、スケッチブックにずっと書いていきます。キャラクターができてくるとキャラクター同士で会話を始めるのです。それを聞きとりながらずっとストーリーを考えます。楽しいですよ。物語を考えていると、脇に逸れたり戻って来たりしますので、余分な部分を省いて物語に必要な分だけをピックアップしてこのような会話になっていきます。物語のあとはコマを割って構図を決めて、展開していくか、どんなふうに見せるかということは毎回考えます。

お話がわかるように、主人公が誰かわかるように、誰がどこにいるかわかるようになど、そういう基本的なことを押さえながら描いていきます。頭の中ではこうだとわかっているので、ついつい説明したくなってしまうのですが、説明っておもしろくないから誰も読まない。それをどんなふうにおもしろく伝えるか、詩的に語るとか、きれいな絵を描いて説明と気付かせないように説明してしまうとか。
人間は呼吸をしているので、呼吸のリズムとコマのリズムと台詞のリズムを音楽の流れのように割り振っていくと、読みやすくなります。音楽にはリズムがあります。画面もそうで、コマを割ったりキャラクターを描いたり台詞をおいたりするときに、リズムをつくります。このリズムがうまく読者の目線を誘うように、呼吸に合うように割り振っていくのです。自分で描きながら自分も呼吸していますから、自分の呼吸に合わせている。これがうまくいくと、そのページを開く度にいい呼吸が生まれる。心地いい感じをフィードバックしていきます。

●銀の三角
銀の三角このページはずっとこの星の状況とお祭りのときの話をしているのですが、これは説明なので、台詞をちょっと読みやすい詩のような文章にしています。例えば右の一番下のコマにはアップのイケメンが出てきて、2行しかおかない、というようにメリハリをつけています。横長のコマが続いて、左側のページにはいろっぽい女の人の目つきなんかを入れてみる。
いい音楽が頭の中を流れているような感じで、いいコマ割ができて、いい構図ができていくと、気持ちがいいなと感じます。

〔時間軸をどこからどこまで描こうかという案配〕
原稿の前のネームでざっとした下書きを描きます。今回は16枚しかないのに20枚予定していたとします。4ページあったらいろんな女の人を横長1枚で描くかもしれないのですが、それを削ったり、何度も何度も見て重複してこれはなくても大丈夫だろうというところを削ったり、そんなふうにして最終的なネームをつくって、画面に写していきます。

●スター・レッド
スターレッド 文庫本表紙編集さんに「三日後に予告入れてくれ」と急に言われました。タイトルをとにかく決めてくれと。「スターウォーズ」が流行っていたので、「スター」で始まるタイトルにしようと思い「スター・レッド」と名付けました。安易ですね(笑)。何故「レッド」にしたんでしょう?地球に住んでいる宇宙人の話を描こうと思い、火星人にしてしまえと思いました。火星人だけど地球人のふりをして暮らしている子にしようと。そこから一週間、必死で話を考えましたが一話以上は考えつかない。その都度その都度考えようということにしました。

火星の写真集を見ながら、地球を脱して火星に移民した人の子孫の話にしようと思いました。超能力者の話を描きたかったので、火星人で超能力者になりました。地球で育っているけれど、いつも火星にいることを夢見ている子です。

スター・レッド セイの過去セイは主人公にしたときから、とても強く自分のことを主張してくれて、語ってくれてました。自分はこんなふうに地球で生きているけれど、いずれは火星に帰りたい。火星で過去私はこんなふうに生活していたという話をどんどんしてくれます。
見開きのこちら(右)に彼女の過去のエピソード、火星で旅している姿が描かれていますが、ネームをしていたときは3ページで構成されていて、まず彼女の過去の旅の話が1ページ、それから見開きでキャラバンを旅している姿を描く予定でしたが、結果2ページで仕上がっています。ぎゅっとまとめた分、逆に見開きの構図がいい案配に見開きにきれいに入ってくれてよかったです。

スター・レッド 夢見これは主人公のセイが火星に行って自分たちの仲間に会うシーンです。みんな超能力者で、これから起こることを予言しています。持っている杖がなって、みんなトランス状態になって予言をしますが、それが「セイは災いの元だ」と言われているというシーンです。地下の洞窟なので太陽の太陽の光が入らない。光がなくても良いのです。この人達はみんな超能力で周辺をセンサーのように感じているので、元々目は光を感じることはない、という特殊な設定にしています。

●柳の木
柳の木台詞がなくて、大きなコマが淡々淡々と続いている作品です。これは死んだお母さんが息子をずっと見守っているというお話なのです。昔、知っていた人に、子供の頃お母さんを亡くしたけれど、お母さんが死んだということに対してお母さんを恨んでいるのです。それはたいへんだなぁと思って。でもお母さんの方の気持ちはどうだったのかなと思いついて、この話を描きました。
川の側の柳の木と女の人、という構図はずっと変わりません。まわりの風景は変わっていますが、女の人は変わらないままです。


●トーマの心臓 未公開ネーム
これは「トーマの心臓」下書きで使わなかったシーンです。映画を観て「トーマの心臓」を思いついて描き始めたときのものですから、編集部からの制限が何もないわけです。素直に描いていった中にあったシーンの一つです。

●ポーの一族 ユニコーン
月刊フラワーズ 2018年7月号どうやって漫画を展開させるのかの話ですが、例えば「ユニコーン」だったら、カラーが3枚に活版(モノクロページのことです。現在は活版ではありませんが、先生がそうおっしゃるので"活版"で統一します)です。カラーが3枚ということは、そのイントロダクションで読者のつかみをとった方がいいんですね。
ファルカとエドガーが出会って、「さわらないで」と言うシーンを1枚目にもってきて、次のページが見開きで、ここまでがカラーです。次に活版の1ページ目になります。
二人が出会ったシーンはミュンヘンのマリエン広場です。ていねいに説明したら、まずマリエン広場のシーンから始めて、ファルカが辻音楽みたいなのをやっていて、きょろきょろしていて、エドガーを見つけて、「あ、エドガーがいる」でエドガーに寄っていくというイントロダクションのイメージでいたのです。でもやっぱりエドガーが主人公だから、カラーだったらエドガーを入れないと、と思いました。

※ここで、もしカラーでなかったらどうなっていたのたかというネームを実演で描いてくれました

最初のネームだとまずマリエン広場から始まります。マリエン広場には時計塔というとてもきれいな塔があって、ちょっと遠景で時計塔を描きます。こんなふうに建物があって、ここにちゃんと「ドイツ ミュンヘン マリエン広場」と説明を書きます。
マリエン広場で何をしているかというと、ファルカがバイオリンを弾いていて、後ろで友達がピアノを弾いていたりします。広場を行き来する人々がいます。ファルカが「はっ」と気付くとマリア像のあるところの裏にエドガーがいます。ファルカが「エドガー!」と叫んで、エドガーがチラっとファルカを見て、そしてファルカが走り寄ってくる。というようになる予定だったのですが。そうなると主人公のエドガーが全然カラーページに登場しない。活版ならこれでもいいのですけども。

ポーの一族 ユニコーンカラーなのだから、エドガーはここから入れようと思いました。エドガーがいるところと、チラっとファルカを見るのをこのコマに集約してしまいました。ファルカが近寄ってくるというところは描けないので、もう手1本だけでだけで表します。それを止める。それで「さわらないで」というシーンになります。そして最初に考えていた「ミュンヘン・マリエン広場」というコマがここにはいってきます。最終的にはこういう展開になりました。

ポーの一族 ユニコーン編集にどういう話になるか、何ページくらい必要か、ということを説明するのは連載開始からだいたい半年から三ヶ月くらい前です。1ヶ月くらい前にカラー何枚、活版何枚で何ページですと言われます。このページを表紙にしても扉にしても構わないのです。最初のページに扉がきて、2枚目3枚目と物語を描いてもいいのです。私は扉の前に話を一つおくというのが好きなのです。扉は見開きで使えるので、好きな絵が描けます。

マリエン広場には動く古い人形時計があって、お盆の上をお人形がぐるぐる回っているのです(Das Glockenspiel am Münchnerで画像検索)。時間がくると、くるくる回っていきます。そんなイメージで「ユニコーン」に登場する主なキャラクターをおいてみました。

見開きから始まってそれから活版にいったり、見開きをフルに物語に使ったり、それは編集と相談して決めます。表紙見開きで、裏が1枚でいいですよと言われることもありますが、最初に物語が1枚あってそれから扉が見開きの方がドラマチックなのではないかと思います。

ポーの一族 ユニコーンポーの一族 ユニコーン
このシーンでエドガーがアランの話を始めます。ファルカは、アランはいないからアランは死んだものと思っています。ですからその話をしたくないとファルカが言う。エドガーは炭を抱きしめていたのだけど、どうも生きているみたいだと言い出します。ファルカはそれはただの炭で生き返らないと思っているから、エドガーの話を止めようとします。

ポーの一族 ユニコーン「無垢(イノセント)なものが欲しい」ファルカとエドガーが会話しているときに、このセリフをどこかに入れたくて、あっちにおこうかこっちにおこうかと考えたのです。「このトランクに炭になったアランが入っているよ」と言った後に入れるのか、それとももうちょっと後におくのかもっと前におくのか、考えたあげくにやっぱりページをあけた最初にこのセリフをもっていきたいと思って、この位置に入れました。

「ユニコーン」は来年からまた始めます。歴史を時間を行ったりきたりします。しばらくアランはトランクに入ったままです。


●質疑応答コーナー
Q1.だいぶ前のインタビューですが、先生が東大生の方にインタビューを受けていた中で、若い人に「大切なのは人間関係」だとおっしゃっていたと思うのですが、自分は引っ込み思案で積極的になれなくて、人間関係ができないのですが、そういう人はどうしたらいいとお考えでしょうか?

A1.私に弟がいまして、その子が引っ込み思案で人間関係をまったくつくれなくて、臆病になっています。その弟を見るにつけ、やっぱり人間関係は大切だなと本当にそう思うんです。実は私もどうしたらいいのかわからないのですが、私は気のあった人と過ごすのが好きで、この人、友達になってくれるかなと思うと、その人が迷惑するのにそばに行ったり訪ねて行ったり結構やっていたんです(笑)。「遊びに行っていい?」「なんで?」そんなことをやっていくうちに、だんだん付き合いが長い人、(一緒に)いて居心地のいい人というのがわかってきます。中にはちょっとキツイ人とか、タイプが違う人、うまくいかない人もいて、そういう人がだんだんわかってきます。なんでも少しずつやっていくのが一番いいです。そして、この人は一緒に過ごして気持ちがいいなという人を見つけていく。自分以外の人はみんな完璧というわけではないから、あなたのまわりにいる人も「友達をつくりたいけど、どうしたらいいのかな?」と思っているかもしれません。そういう人の中で少しずつもまれていくといいと思います。

いろいろおもしろい人もいたのですが、私がやっぱり苦手だなと思ったのは自分の意見を正しいと押しつける人です。そういう人は頭が良かったりするので、「いや、私はこう思うのですが」と言ってもクソミソにケチョンケチョンにされる。その人の話はおもしろいから、また遊びに行くのですよ。するとやっぱり意見が違う。だんだんもう意見が違ってダメだなぁと思いますが、と言っても意見を言わない人もおもしろくない。そういう兼ね合いってだんだんわかっていくのです。きっとそのうちどなたかに巡り会うのではないかと思います。巡り会うまでがたいへんだけど、巡り会えたらそれは貴重な人です。頑張ってください。

Q2.先生は「キャラクターが頭の中で会話を始める」とおっしゃっていましたが、それはそのキャラクターが言いそうだということがあるのだと思いますが、どうやってそのキャラクターの基礎設定はできるのでしょうか?

A2.私がわりと描きやすいのが、いじいじした暗いキャラクターと、それとはまったく真逆の「私はそんなこと気にしないもーん」という感じですっ飛ばしていくような人です。また、腹に一物ある人、これもなかなかちょっと含みがあって描きやすい。エドガーとアランのコンビネーションを考えたときに、本当に二人で思うように喋ってくれて。
描いた当時は夢中になっていたので自分でもこんなものだろうと思っていましたけれど、40年ぶりに描き出してみたら、本当に二人でだーっと喋ってくれるので「あぁ、キミたちはいいキャラクターだね!」「ごめんね放っておいて」と反省しました。
自分の中の願望とか夢とかこうあったらいいのにというものがキャラクターとして具現化したものだと思うのですが、うまくそういうのが見つかったら大切に育ててあげるといいと思います。


11人いる!Q3.「11人いる!」のフロルというキャラクターの設定が生まれたきっかけを教えてください。

A3.「11人いる!」の設定を考えたときに、すごくきれいな男の子が一人いたら、みんながびっくりするだろうなと思ったのですが、それが両性具有とか未分化だったら、もっとおもしろいなと思いました。どっちになってもいいようなという設定はちょこちょこSFであります。すごく有名なのはル・グウィンの「闇の左手」。手塚治虫先生の「メトロポリス」に両性具有のロボットが出てきます。ほ乳類と鳥類以外では性が決まってない場合が多い。そのキャラクターはきれいだけど自分は合格して男になりたい、長男かしか男になれないという世界からきた、というふうに段々できていきます。宇宙大学のテストなのだから、本当は男女混合のはずなのですが、その辺の説明はちょっとすっとばしてしまいまして。たまたまメンズという感じです。中には「なんで女が大学受験にきてるんだ」なんていう差別的にセリフもあります。それを考えていたとき、未来でも差別されるのかななんて考えていたのですが、そこをもう少し突き詰めて考えればよかったという感じがします。

Q4.キャラクターがイニシアチブをとって物語が展開されていくのか、それとも先生が物語がおもしろくなるように、キャラクターの設定を変えたりとかすることがあるのでしょうか?

A4.最初に考えた物語はあまり変わらないです。物語にうまくあったキャラクターが生まれると、キャラクターも物語もお互いに刺激を与えながら育って展開していきます。時々、話は決まっているのにキャラクターが出てこないということがあって、苦労したこともあります。

はるかな国の花や小鳥Q5.「トーマの心臓」の話をされていたときに「いまならこのようにはしない」とおっしゃっていたのですが、「ポーの一族」の「はるかな国の花や小鳥」でヒロインが受け取る側によってすごく感じ方の違うキャラクターだなと思っていたのです。いろいろな方の意見を聞くと「あの弱さが嫌い。ああいう受け身の女性は嫌い」という人と「愛に殉じる生き方は普通の人にはできないから憧れる」という方もいらっしゃる。萩尾先生はあの作品ではそれを是とも非とも結論を出さずに提示されています。自分も初めて読んだとき、二十歳になってから読んだとき、歳をとってから読んだときと感じ方がどんどん変わってきていますが、萩尾先生がいまエルゼリさんを描くとしたらどのように描かれるか、またエルゼリさんのことをどのように感じられていらっしゃるか、おうかがいしたいです。

はるかな国の花や小鳥A5.いま描いても同じように描くのではないかと思います。
「あの人ははるかな国の住人だったのです」という話ですが、いわば自分の世界に生きている人でしょう?もっと現実に即した生き方しなくていいのか?と思うのですが、私もこんなふうに非現実の世界で生きてみたいという願望があったものですから、夢の世界の中だけで生きているような女の人にしてしまいました。
そこにエドガーが登場して、やがてそこを去るときに、列車の中でエドガーが泣き出すシーンがあります。あれはエルゼリのことをすごくかわいそうに思って泣くのですけど、いわばエドガー自身が架空の存在じゃないかと。架空の世界で生きているエルゼリのことを思ってる。自分でネームをうっていて、いきなりエドガーが泣き出すもので「え、ちょっとちょっとキミなんで?」(笑)。エドガーは泣いた理由をアランには説明しない。アランはなんでかなぁと、そんなふうな感じです。


Q6.「ポーの一族」の「春の夢」の頃、スタジオライフの「エッグスタンド」を上演していたのですが、「春の夢」で第二次大戦中にパリでファルカが女装して踊っていたという話がありましたが、同じ戦時中のパリなので、もしかしたら「エッグスタンド」に出てきたお店なのかな?と妄想してしまったのですが、先生としてはいかがでしょうか?

A6.ファルカさんの女装のイメージは「ラ・カージュ・オ・フォール」という女装の男性・女装の男性で構成された舞台があって、映画にもなっています(「Mr.レディ Mr.マダム」)。それがすごいおもしろいです。ファルカさんはそこで働いているイメージで描きました。

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